目次 [非表示]
東京都心に学び舎を構える港区立青山小学校(港区南青山、児童数約180人)。1875年開校という長い歴史を持つ同校は今、未来の担い手となる子どもたちへのSDGs教育に取り組んでいます。近くの企業と連携した活動や、神宮外苑など多くの緑に囲まれた立地を活かした校外学習を進めています。校長の可児(かに)亜希子先生は「今の取組を定着させて、この先にもつなげていきたい」と話していました。
緑を身近に感じられる都心の校舎
SDGsの目標を小学生バージョンに
都心に校舎を構える港区立青山小学校
皇居のまわりをめぐる内堀通りから赤坂、表参道を通って渋谷駅へとつづく青山通り。にぎやかな大通りから一本路地に入ると、マンションや住宅に囲まれるように青山小学校の校舎が立っています。校門から校庭までの道にはアジサイやハナミズキ、モミジなどの木々が植えられ、両側につくられたビオトープでは、カメやキンギョが気持ちよさそうに泳いでいます。
緑や生きものを身近に感じられる校内に掲示されているのが「青小SDGs」と書かれたポスターです。本物のSDGsと同じように17の目標(ゴール)がありますが、ここには特別な工夫があります。たとえば、3番目の「すべての人に健康と福祉を」は「てあらい うがいをしよう」、8番目の「働きがいも経済成長も」は「かかり・とうばんをしっかりやろう」、17番目の「パートナーシップで目標を達成しよう」は「みんなでたすけあおう」と、小学生にもわかりやすい言葉に変えられているのです。「SDGsの目標には子どもたちには難しいものもあるので、子どもたちが考えて分かりやすい言葉に工夫しました」と可児先生は教えてくれました。
近くの企業と始めた環境教育
ノートのリサイクルでゴミ問題に関心
伊藤忠商事と一緒に行ったマングローブの苗木づくり(一部を加工しています)
同校がSDGs教育を始めたのは2021年度のこと。近くに本社がある大手総合商社の伊藤忠商事(現在は建て替えのため港区赤坂の仮本社へ移転)から「マングローブの再生を小学生に手伝ってほしい」と声をかけられたのがきっかけでした。校内で苗木を育てたほか、同社社員による特別授業などを行いました。当時の校長だった髙山直也先生は「私たち人間も地球上で生かされている存在の一つ」として環境教育を大事だと考え、「持続可能な社会の創り手となる人材を育てる」という目標を掲げたのです。
2023年4月に着任した可児先生も、この思いを引き継ぎました。「自分自身も子どものころから地球環境や生きものの命、平和を守ることに関心があったので、青山小学校に赴任できて本当にうれしかったです」と語り、活動をさらに広げました。
まず、港区内に東京オフィスを持つ文具・オフィス家具大手のコクヨと一緒にノートのリサイクル活動を2023年からスタート。校内にリサイクルBOXを設置して子どもたちが使い終わったノートを回収。それまではゴミになっていたノートが新しいノートの表紙に生まれ変わっています。コクヨの担当者による特別授業も行われ、子どもたちはゴミを減らすことや資源を循環させることの大切さを学んでいます。「リサイクルを機に、ノートだけでなく、学校で使うモノすべてを大事にしようという姿勢が見られるようになりました」(可児先生)と、子どもたちに変化が表れたそうです。
開校150周年関連で再生紙や端材を活用
能登半島地震の被災地支援につながる
石川県の加賀杉を使ってカードスタンドを製作
能登半島地震の被災地への支援につながった取組もあります。印刷などを手がけるキンコーズとコラボし、同校の開校150周年だった2025年、記念式典のパンフレットなどに石川県でつくられた再生紙「おきあがみ」を使用したほか、石川県の加賀杉の端材を活用したカードスタンドを記念品として配りました。資源の有効利用という環境にやさしい活動を行うと同時に、石川県産品を使うことで被災地への支援金という形にもなったのです。
この取組は、その前年、港区内で開催された環境関連イベントに同校の校外学習で訪れたことがきっかけでした。同社のブースで石川県産品の活用と被災地支援の活動を知った可児先生が担当者に話を持ちかけたことから始まりました。それまでの伊藤忠商事やコクヨとの連携は区教育委員会を通じて話が提供されましたが、キンコーズとのコラボは、同校の環境教育が別の活動に広がるという、まさしく同校独自の取組だったのです。
緑豊かな環境を活かした校外活動
街の清掃活動やコンポストづくりも
「ののあおやま」のビオトープで校外学習
神宮外苑など同校周辺の緑豊かな環境を活かした教育も行われています。たとえば、高層ビルと大規模な緑地が調和した複合施設「ののあおやま」(港区北青山)は同校の総合学習の場となっています。緑地内にはビオトープや芝生公園が整備され、昆虫の観察やドジョウの放流が行われるほか、子どもたちが敷地内に木のチップをまくなど、より良い環境づくりの手伝いもしています。
このほか、街の清掃活動への参加や給食の残りものを使ったコンポスト(肥料)づくり、校内ビオトープのつくり替えなど、さまざまな取組を続けています。清掃活動をしてからは「道に落ちているゴミが気になるようになった」と話す子どもが増えました。自分だけでなく、周りの人や動物・植物も大切にしようと考える子どもが多くなり、保護者からも「小さな子にもやさしく接するようになってうれしい」という声が届いているそうです。
コンポストでは、同校の特別支援学級が土づくりをして苗木を育てています。このほかにも不要になったモノや使い終わったモノから石けんや消臭剤をつくり、苗木ととともに販売し、売上金で必要な物品を購入しています。可児先生は「こうした活動がキャリア教育となり、子どもたちの将来の仕事につながっていけば」と期待を寄せています。
「環境教育・ESD実践動画100選」に認定
企業サイトやエコチルなどでも紹介
青山小学校の取組はエコチルでも紹介されました
同校のSDGs教育は多くの人たちから注目され、2023年には環境省の「環境教育・ESD実践動画100選」に認定されました。ESDとは「持続可能な開発のための教育」という意味です。また、一緒に活動している企業のサイトのほか、メディアでも取り上げられています。
エコチルでも紹介されました。「他校の活動の様子をエコチルの紙面で知り、本校の取組も知ってもらいたい」と、可児先生からエコチルに取材してもらいたいと連絡したのです。「子どもたちや先生たちの励みにもなります」(可児先生)と期待された記事はエコチル東京版(2025年10月号)に「SDGsに取り組み始めて5年!」とのタイトルで掲載。1ページを使ってノートの回収や「ののあおやま」での校外活動、校舎のグリーンカーテンづくりなどの様子が多くの写真と一緒に紙面を飾りました。さらに、記事に合わせる形で同月号のトップページの「レッツトライ エコライフ」(校長先生を紹介するコーナー)に可児先生が登場。同校のSDGs教育を強く印象づけました。
掲載紙が校内で配られたとき、子どもたちは自分たちの取組が周りの人たちからどう思われているのかを知り、驚きとうれしさを表していたそうです。「評価されるためにしていることではありませんが、していることを知ってもらえるとうれしいのは、大人も子どもも同じだなと思いました」と可児先生は振り返りました。
さらに可児先生は「本校や他校の取組について“その後”を継続して記事にしてほしい」と要望。「たとえば、ある学校で植林をしたという記事が載ったら、その1年後にどうなったか、その間にどんな問題があってどう解決したかも記事にしてもらえれば、大いに役立ちます」と話していました。
上級生から下級生へ受け継がれるSDGs
活動の定着と広がりに期待
ノートの回収や紙すき、コンポストづくりと青山小学校の取組は上級生から下級生へと受け継がれている
同校でSDGs教育が始まってから2026年度で6年目。つまり全児童(転入生を除く)が入学時からSDGsについて学んでいることになりました。「上級生の行動を下級生が見てSDGsの思いが受け継がれています。この取組を定着させて、この先にもつなげていきたい」と可児先生。
こうした小学生のときの学びは、大人になってから「実はとても大切なことだったんだ」と気づくときが訪れます。「小学生ではできなかったことも、今ならできる、と考えて行動に移すこともあるでしょう。環境や人権、平和のために、こういうことをやろう、こんなことはやめよう、というふうに、ここでの学びが将来、行動のアクセルやブレーキになってくれたらうれしいです」と可児先生は子どもたちの未来に思いをめぐらせています。
活動の広がりにも期待を寄せています。「一つの小学校での活動だけでは効果や影響にも限りがあります。本校の取組が多くの方々に知られるようになって、自分たちもやってみよう、という動きが広がってほしいし、その際には私たちへ気軽に問い合わせてほしいです」と可児先生は呼びかけています。
エコチル特別記者、元産経新聞記者。産経新聞では企業や役所、警察などを取材し、1面や経済面、社会面に記事を書きました。そのあと中小機構(中小企業を応援する国の機関)では全国各地の中小企業を取材。2児の父親。子どもたちの幼稚園、小学校時代は運動会などの行事にはほぼ欠かさず足を運びました。趣味は50代で始めたピアノ。全然上手ではありません。






